パリ、モンテーニュ通り。美が生まれる場所
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© PHOTO DE ROGER DO MINH
オートクチュール
映画『オートクチュール』最速プレミア試写会&渋谷ファッションウイーク スペシャルトーク 小泉智貴×杉浦今日子 対談レポート
【日時】 3月18日(金)
【場所】東京カルチャーカルチャー
本編の鑑賞を終えて余韻に浸る満員の観客の前に登場したのは、世界的なドレスデザイナー小泉智貴さんと刺繍アーティストの杉浦今日子さん。本作の登場人物と職業がリンクする登場ゲストに、観客からは大きな拍手で迎えられ、本日のトークイベントが開幕しました!
小泉智貴さんと杉浦今日子さん

「斬新だと感じた」 「現実味がある」

2021年東京オリンピック開会式にて国家斉唱の衣装を担当し、毎日ファッション大賞を受賞されるなど大活躍の小泉さんは、2022北京冬季オリンピック、フィギュアスケート銀メダリストの鍵山優真選手のエキシビジョンの衣装を手掛けられて大きな話題となりました。本作の感想を聞かれると「ストーリー自体はフィクションなのに、ディオールという実際のブランドのアトリエをモチーフにしている、ということが斬新だと思いました。日本ではなかなか難しいですよね。(フランスは)映画発祥の国だからか、リスペクトがあって協力もするんだなと勉強になりました。」と語りました。また、自身の創作活動のかたわら、年2回のオートクチュール・コレクションの時期にはパリの刺繍アトリエで職人として刺繍制作に携わられおり、本作のお針子さんたちの近い仕事をしている杉浦さんに感想を伺うと、「オートクチュールという言葉にはリュクス(華美、贅沢)なイメージがあるかもしれませんが、実際のアトリエでは私のような普通の人が働いているので、映画の舞台もリュクスな世界というよりは、その裏で働くプティ マン(小さな手)と呼ばれるクチュリエたちの話で、とても現実味があるなと思いました。」と、現場を知る杉浦さんらしい感想をいただきました。

それぞれ現職についた動機について話が及ぶと、小泉さんは14歳の時に、2003年にジョン・ガリアーノによるディオール秋冬オートクチュールを雑誌で目にして衝撃を受けたとの話に触れ「舞台的な、エンターテインメント性のあるファッションが好きだった。」と当時の気持ちを思い出して語り、その後2020年3月にパリでディオールの親会社のコンペティションに招待され、マリア・グラツィア・キウリ(現クリエイティブディレクター)の前でプレゼンをしたことを明かしました。

また、ファッションとは無縁だったはずがいきなりオートクチュールのアトリエで働く事になるジャドに共感する部分はあるかと訊ねられると、「ジャドが初めは反発していたけれども、素直に心を開いてどんどん熱中してのめり込んでいく姿に、昔の自分が重なった。」と共感の気持ちを語ってくれました。

杉浦さんは、2009年に「夫と海外で暮らしてみたいね、と渡仏したんですが、苦手な語学の学校に行きたくないという理由で(東京でもずっとしていた刺繍ならと)刺繍の学校に入った。」とのエピソードを披露し、「学校では企業研修があって、まずプレタポルテに行きました。じゃあ次はオートクチュールの時に来てみる?と声をかけていただいたご縁で今に至ります」と刺繍の仕事への一歩を踏み出した経緯を説明。(本作に共感したところについて)「アトリエにはいろんな人が居て、それは日本もフランスも一緒だと思うんですけど、みんな技術で食べているという自負があるので、意見がぶつかったりすることもありますね。」と本作で描かれた、アトリエのお針子たちの衝突についても経験があることを明かしました。

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一緒に働くことの素晴らしさと難しさ

自身のアトリエの様子について聞かれた小泉さんは「コレクションだと10~20ルック作るので普段持っているチームではできないので外部のプロの方々にお願いすることが多く、必要な時に集めて終わったら解散するので、一緒に働くことの素晴らしさと難しさは映画を観ていて共感しました。(小泉さんはエステルのように、厳しいのか?と聞かれると)いや(笑)ピリッとさせていることもあるかもしれないですが、プロ同士のぶつかり合いなので…」と冷静に対応していると明かし、それとは逆に杉浦さんは、「私は外部から入る職人側」ということで、その難しさもあるといい「アトリエによってかなり雰囲気も違って、材料の呼び方も違うこともありますね。それは、入ったらそこのやり方でやる。とにかく観察ですね。オートクチュールはいつも同じアトリエへ長い期間行っているので、規模は小さいので家族みたいな付き合いです。」と、チームに入る難しさについて、語りました。

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ハサミを落としたりする「迷信」について

本作には、アトリエでの仕事中、リナ・クードリが演じたジャドがハサミを落としてしまい、縁起が悪いと塩で手を洗うシーンがあるが、実際にそのような迷信があるのか問われると、杉浦さんは「私が行ったところではなかったですね。ハサミを落としたら静かに拾いますね。」と実際のアトリエではそのようなことはなかったと言うと、小泉さんが、「ああ、日本の方が(迷信のようなものは)あるかも。折れた針をあつめて針供養したり、豆腐に刺したりしますよね?」と「自分はしたことがない」といいつつ、日本にはあるかもしれない迷信を紹介してくれました。

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小泉さんの作品作り

2022北京冬季オリンピック、フィギュアスケート銀メダリストの鍵山優真選手のエキシビジョンの衣装を製作したエピソードを聞かれた小泉さんは、「とにかく時間がないですね。」と振り返る。「鍵山さんは調整のために早めに中国に入るので、それまでに日本で手渡ししたいということもあって、演技から2、3週間前に出来上がらなければいけない。そんなスケジュールで製作しました。フィッティングについては、鍵山さんは名古屋にいらっしゃったので、衣装を東京から名古屋に送って、着てもらってそれを送り返してもらって、直して、というやりとりを数回経て完成させました。」と当時の苦労を思い出して語りました。

杉浦さんの刺繍職人としての思い

(刺繍職人の資質を聞かれると)「技術的に言えば、早く綺麗に正確にということが求められます」という杉浦さんに、「綺麗なだけではダメで、それが全てですよね」と小泉さんも呼応。「奇跡の指先を見ただけでわかりますか?との質問に「ないです!」と笑う。「続けていくことで成長している。ということを実感しますね。」と、続けることの大切さを語る。「今、スマホでの検索などでいろんな情報に気軽にアクセスできるからこそ、イメージに対する感度はすごく良いと思うけど、実際に見て、手で触って感じる機会をもっと増やして、感度を上げていって欲しいです。」と、パリで刺繍を教えているときに実際に生徒にかける言葉を披露してくれました。

小泉さんも、「自分もいきなり自分のやりたいことができるようになった訳ではないので、続けることって大事だなと思うんですね。それで見えてくることがある。これから15年目、20年目で見えることは違うと思うので、コツコツ続けていきたいなと思っています。ゴールはない。」と続けることの大切さを改めて実感している、というメッセージを送ってくれました。

渋谷とファッションについて

3/31まで渋谷ファッションウイークが開催中ということで、渋谷とファッションについて問われると、小泉さんは「去年まで渋谷に住んでいて、(今ドレス展示をしている)Bunkamuraに近かったから、あの辺をよく散歩していました。やっぱり渋谷はおしゃれな人が多くて。すごい派手な格好の人を見ると元気がでるし、活気があっていいなと思います」と話し、杉浦さんは「日本に来るたびに日本はおしゃれだなと思います。フランス人は普段とハレの時の差が大きいので。渋谷の街を歩いているとおしゃれな人がたくさんいて、ドキドキします。すごく素敵だなって」と印象を語ってくれました。

小泉さんと杉浦さんから、それぞれの世界で実際に体験した経験をお話しいただき、本作で描かれたオートクチュールの世界への理解が更に深まるトークイベントとなりました。エステルとジャドが母娘のように、そして親友のように、厳しいオートクチュールの世界で彼女たちが本当に大切なものを手に入れるまでを描いている本作。是非劇場でご覧ください。

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小泉智貴/TOMO KOIZUMI
(ドレスデザイナー)

2011年、大学在学中に自身のブランドを立ち上げる。2019年初となるファッションショーをニューヨークで開催。2019年毎日ファッション大賞選考委員特別賞受賞、BoF500選出。2020年LVMHプライズ優勝者の1人に選ばれる。2021年東京オリンピック開会式にて国歌斉唱の衣装を担当。2021年毎日ファッション大賞を受賞。

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杉浦今日子
(刺繍アーティスト)

東京で刺繍作家・講師として活動ののち2009年に渡仏。『Kyoko Création』の名で自身の創作活動のかたわら、年2回のオートクチュールではパリの刺繍アトリエで職人として刺繍制作に携わる。独自の素材やモチーフを開拓し、繊細な手わざを限りなく積み重ねていく手法はフランス工芸アートの世界でも高く評価されている。ヨーロッパの芸術と刺繍の歴史を巡り旅することがライフワーク。
フランス工芸作家協会Ateliers d’Arts de France会員。